第9回日本ラブストーリー大賞 1次選考あと一歩の作品(13)

『葉山ミッション』/福田 磨理子 

 あらすじ&コメント

舞台は葉山の海岸沿いの町。にぎやかな湘南とはひと味違う静かな風情が、落ち着いた文体とあいまってよく伝わってきます。カトリック教会の運営する児童養護施設テレジア園の職員・山本春菜が、海辺で眠っていた青年・マコトを見つけるという書き出しは、やや唐突な感じもしましたが、その後の展開は手堅く安心して読みすすめられました。テレジア園で働き出したマコトの好青年ぶりがちょっと胡散臭いのも、後半への伏線にもなっていてよく出来ていると思います。最近父を亡くしたばかりでふさぎがちだった春菜が人なつっこいマコトに徐々に心を開いていく一方で、春菜の父の死因を調査する保険調査員・松井美穂子が春菜のもとへ訪れてドラマが動き出します。自由人的なマコトと理知的な美穂子、二人の来訪者に心を揺さぶられた春菜がやがて父の死に向き合うようになっていくまでをしっかりとした文章力で描きだしています。

難点は二つ。一つは、物語前半で持ち出される「召命」というモチーフが活かされていないこと。これはクリスチャンにとっては信仰の核心にかかわることで、それだけに春菜の迷いの深さを表現しているとも言えますが、その重大さが読者に十分に伝わるよう描かれているとは思えない。消化不良の印象が残ります。

二つ目は、春菜の父の保険金をめぐる謎解きをクライマックスにすえてしまったこと。謎解きがメインになることで、それまでの春菜とテレジア園の子どもたちや修道会の人たちとの交流もマコトとの淡い恋も二次的なエピソードに繰り下げられ、物語は途中から保険調査員・美穂子を実質的な主人公にしたミステリに変わってしまう。そのため、父の死を乗り越えて恋に踏み出すヒロインの成長がかすんでしまいました。

つまり、全体としてはヒューマンドラマにミステリを接ぎ木したような印象を与えてしまうのが残念でした。主題を定めて、読者をぐいぐい引っぱっていくようなドラマづくりを工夫してみてください。

あと一歩の作品一覧に戻る

一次通過作品一覧に戻る